右派言説の分析

ここでは「右派」のさまざまな主張の背景となっている(心理的)傾向について分析してみる。すべての右派的主張や右派的と考えられる個人が、ここで挙げる傾向をすべて持っているわけではない。一般的に派閥的な言説は(左右の別を問わず)同じような傾向を持つ人々の間で交換されるうちに具体化され、強化されていく。

  • 保守主義
    既存の制度を保持しようとする傾向
    既存の制度を毎日のように実験的に取り替えていたら社会は維持できないので、社会内に保守主義が一定程度存在することは合理的である。一方、社会内で保守主義傾向が強すぎれば、社会を改善することはできなくなる。
  • 権力主義
    権力を持つものに味方する傾向
    権力を持つものと自己を同一化することにより力の感覚を得ることができる。
    投票権などの「民主的権力」を心理的な同一化の対象とするのは難しいので、同一化の対象となる権力は通常は集中された行政的権力である。従って権力主義は反民主主義であることが多い。
    この傾向を保ちながら同時に弱者と自己を同一化することは難しいため、しばしば弱者への迫害を志向することになる。
  • 全体主義
    全体の利益を個の利益に優先する傾向
    全体の功利を最大化すべきという功利主義原則からすると合理性があるように見えるが、実際に体制化されると「体制」の利益を最大化する一方で弱者の利益が蹂躙されかねないことは歴史が示すとおりである。
  • 同族主義
    親族、仲間の利益を優先する傾向
    自らの遺伝子の生存確率を高めるという生物学的な戦略に基づくと考えられる。
    宗教や民族や国籍に基づく排他主義をもたらす。
    理性的な普遍主義に反するので、反理性主義の一種といえる。
  • 愛国心
    自分の所属する集団、場所への愛着(郷土愛)
    これ自体は単なる(馴れによる)感情であるが、同族主義と全体主義を強化する。「郷土」が「国家」と同一化されるとさらに権力主義を強化し、下記の国家主義を強化する。
  • 国家主義
    上記権力主義、全体主義、同族主義を(国民という同族からなり、主権を持つ)国家という制度に基づいて結合したものである。
  • 軍国主義
    軍事力を優先する軍事主義と国家主義が結合すると軍国主義となる。
    軍事力をどのようにとらえるかは左右の傾向とは独立かもしれない。
  • 反左派主義
    左派または社会的公正主義の主張と反対の主張を採用する傾向
    心理的には同族主義の帰結と考えられる。
    左派または社会的公正主義の主張は普遍主義的・理性主義的であることが多いため、しばしば反理性主義(反合理主義)的な色彩を帯びる。例えば左派が弱者保護を訴えれば、弱い者いじめを主張せざるをえなくなる。
  • 歴史修正主義
    自分が属する国家(集団)と自己を同一化することで、帰属、承認、権力の感覚を満足させる場合、その国家(集団)のよくないとされる過去の行為を否定したいという欲求が発生する。
  • 自己責任論
    各人が自己の行為の結果について公共の支援を受けてはいけないとする考え方
    経済的には各人が各自の努力に見合う報酬を得るのが公正であるとの考え方
    左派または社会的公正主義が結果の平等や機会の平等を主張して社会福祉を重視することと対比される。
    他の右派の主張と相関する理由は、反左派主義のほか、支援を提供する「公共」と自己を同一化していて、支援が自分の「損」であると考えるためとも考えられるが、米国では個人の政府からの独立と国家権力の最小化を求めるイデオロギーと結合していることを考えると、自己責任論にはより基本的な心理的仕組みがあるのかもしれない。

以上一般的な傾向について列挙した。以下は現在の日本における具体的な右派的政策についての若干のコメントである。

  • 独自憲法制定運動
    自主的に憲法を制定したいという欲求自体は左右の傾向とは独立かもしれないが、一部政党の改憲案は反左派主義的傾向が強い。すなわち(現在の日本の)左派が主張している平和主義、民主主義を棄却し、軍国主義を志向する形のものとなっている。
  • 対米従属
    右派的主張というより承認欲求という一般的な心理学的機序によるものだ考えられる。ただし、より大きな力を持ったものへの承認欲求は、権力主義に通じるものがある。政策的な部分では、対米従属していれば外圧によって軍事行動が可能になる可能性が高いと考えているのかもしれないし(軍国主義)、既得権益もさまざまな部署にあるのかもしれない(同族主義)。
  • 反反原発
    反左派主義を動機の一つに挙げることはできるが、実際的には産官のお仲間(電力会社および関連する官僚、政治家)の権益保護(同族主義)が主な動機であろう。

Commenti

  1. 上に書いたようなことはおおよそ「権威主義的パーソナリティ」という社会的性格により説明ができそうです。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/権威主義的パーソナリティ

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