『人新世の「資本論」』

斎藤幸平著・集英社新書『人新世の「資本論」』(2020)を読みました。以下要約です。

「脱成長コミュニズム」を主張し、その理由付けと今後に向けた道筋を記しています。 最大の理由として挙げられているのは気候危機です。

経済成長と気候危機回避は両立しない

この点について多くのページが費やされていますが、この要約では環境学者の Johan Rockström 氏が2019年にそのような分析を行ったという記述を挙げておきます。両立しないということは、技術革新があったとしても経済成長を続ければ気候危機を回避できないということを意味します。その場合、経済成長を続けて気候危機に突入するか、脱成長により気候危機を回避するかという二択になります。

資本主義の問題

気候変動問題との関係では、資本主義が経済成長を前提としているということが本質的な問題とされています。また、資本主義あるいは人新世の経済システムが環境問題を途上国や将来に転嫁し続けてきたことが挙げられています。

資本主義のもう一つの大きな問題点は「包摂」と呼ばれるもので、人びとを都市生活者、分業労働者とすることで、もともと持っていた生活基盤と力を失わせるという現象を生んでいます。これにより、人びとは「システム」に従属せざるを得なくなります。

ほかにも資本主義についてさまざまな問題点が挙げられています。

〈コモン〉の話

コモン〉は「民主的に管理される公共財」として捉えられ、ネグリ&ハートや宇沢弘文(社会的共通資本)によって論じられてきました。気候変動問題との関連では、地球環境は〈コモン〉とみなされるべきだということになります。資本主義が発展するにつれ、かつて〈コモン〉であったさまざまな公共財が「民有化」され、利潤追求の道具になってきたという歴史があります。この本では〈コモン〉を取り戻すのが「コミュニズム」であるとされます。

マルクスの話

著者はマルクスの研究者なので、上で述べたようなことがマルクスの著作中に見いだせることを示します。マルクスのそうした考察は主に『資本論』出版後に行われたということです。マルクスは、古代ゲルマンの「マルク協同体」や農学者 Karl Nikolas Fraas の古代文明の崩壊過程についての考察などを通じて〈コモン〉とエコロジー、脱成長などの考えを醸成していったとされます。

民主主義と自由について

気候変動を防ぐためには強権的な方法も考えられますが、著者は民主主義と自由を擁護します。一方、気候変動による自滅を選択する自由については「悪い自由」としています。また、危機に陥ってからでは強権的なものが発動してしまう可能性が高いので、早いうちに民主的に対策を選択しておく必要性を述べています。

処方箋

著者は資本主義の諸問題の解決の方法として、社会運動の国際的連帯を推奨しています。 社会運動の例としては、自然エネルギーなどの〈市民〉営化、ワーカーズ・コープ、都市農業、気候市民会議Fearless Cities といった取り組みを挙げています。
また、現状の選挙によるプロの政治家任せ(「政治主義」)では改革はできないとしています。政治は現状のシステムに従属しているし、政治家は「次の選挙よりも先の問題を考えられない」からということです。
しかし、それでは気候危機の回避に間に合わないのではないかという疑問に対しては、3.5%の人々の本気の運動があれば社会は変わるという、書籍 Why Civil Resistance Works (2012) の主張を「おわりに」で述べ、運動に加わるよう促しています。

参考

たまたま今週「連帯経済勉強会」なるものを視聴したので、関連リンクをいくつか貼っておきます。 バルセロナの話は上の本の中にも出てきます。

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